未来に向けた表現—福島県立いわき総合高校演劇部の公演を観て。

 10月9日、私は新長田にあるArt Theater dB KOBEで開催された、福島県立いわき総合高校演劇部の公演「Final Fantasy for XI.Ⅲ. MMXI」を観に行きました。この公演を観るに至ったのは、NPO法人Dance Boxのスタッフである横堀さんからの案内がきっかけでした。福島第一原発から約45キロに位置するいわき総合高校演劇部員が様々な体験と想いを持って神戸に、しかもスタッフを入れると総勢30名以上のメンバーで来ると彼女から聞いた時、私は表現に携わるものとして、今この劇を観ない訳にはいかないなと強く感じました。
 舞台は、震災による友の死と中止になった文化祭の、それぞれを取り戻すために「復活の呪文」を探し求めて冒険の旅に出る物語でした。震災にまつわる、深刻に陥りそうなテーマを彼等は、ロールプレーイングゲーム風な劇に設えて随所に笑いたっぷりのシーンを織り交ぜながら、スリリング且つシリアスな舞台に仕上げていました。
 私はこの公演を観ている最中から、3年前にベルリンで観たイラク人によるイラク戦争に関する演劇を思い出していました。その演劇はアラビア語で上演されていた為、言っている内容は全くと言って良いほど理解できなかったのですが、私は彼等の舞台にとても心動かされたのです。そして改めて、表現というのは言葉の理解を超えた切実な身体から生まれてくるのだと思いました。見終わった後、劇場のプロデューサーであるガビと話をしたところ、その時の一番の心配はイラク人をどうやってベルリンに連れてくるかにあったと言いました。というのはNATO側の一員としてイラク戦争に参加していたドイツに、イラク人である彼等をベルリンに入国させるためのビザ取得には大変な苦労があったそうです。でも同時にだからこそ、彼女はこの劇を彼女の劇場でやらなければならないのだとも言っていました。そんな大変な思いをしてまでもイラクの人々の声を届けたいと願う劇場と、それこそ命懸けで自分達を取り巻く状況を何としてでも伝えたいと願うイラク人俳優の必死な想いが、私は何故だかその日、Art Theater dB KOBEでのDance Boxといわき総合高校演劇部員のそれぞれにシンクロして感じたのです。
 改めてその日のことを改めて思い返すと、「Final Fantasy for XI.Ⅲ. MMXI」が作っていた時間と空間は、いわゆる演劇ではなかったと感じています。演劇という形式を借りた命のやり取り、と言ったら少し大袈裟でしょうか。その場には、瞬間瞬間を誠実に、そして切実に生きていたいと願う人々と、そんな生き様をきちんと見届けたいと思う人々だけが存在していたように、私には感じられました。だから、それが高校演劇であるとか、彼等が高校生であるということは途中から忘れていたとおもいます。観客の多くは、今は亡き死者に身を捧げ、それらの代弁者として存在している彼等とその場を共有し、共振しあっていたのだと思います。そんな場に遭遇し、私は単純に感動していました。
 終演後、アフタートークが開かれたのですが、客席のほとんどの人は帰らず残り、そのトークを聞いていたように思います。トーカーの一人である顧問の石井先生は今回に至る経緯を淡々と、時に笑顔を交えながら語ってくれました。そして、その話しの中で、今回の舞台は原発事故が徐々に明らかになっていく絶望的な状況の中、皆が少しでも前向きになっていくためにと取り組んだことから生まれたことや、その稽古を進めていく中で、最初は落ち込んでいた生徒がどんどん元気を取り戻していったこと等を話してくれました。私はそういった話しを聞きながら、アートには人を救い、希望を抱かせる力がやはりあるのだと実感しました。
 未だに福島第一原発からは放射能が漏れ続け、政府や東電の対応にはますます暗澹たる気持ちになる一方で、こんな大惨事が起きたからこそ、生まれた、いや、生まれてしまった表現とその関係性に、私は3.11以降の未来に対して微かな希望を感じ始めています。なぜなら、今回の舞台を通して、そこに関わる一人一人が真剣に生き、主体的に社会と関わり始めようとする人々の息吹を、そこかしこに強く感じたからです。
 アフタートークも終わり、ロビーに出てくると、そこには舞台を終えた部員達が何人かいました。彼等の瞳は強く前を見つめ、とても輝いているように私には感じられました。その瞳の輝きが嬉しく、また頼もしく感じながらも、私も負けてられないなと思い直し、劇場を後にしました。

砂連尾 理(振付家・ダンサー)


ダンスボックスウェブサイト
http://www.db-dancebox.org/


活動支援プログラム
活動支援プログラムを通じて寄附を募集しています。
http://anpoap.org/?page_id=1467

Comments are closed.