コラム|回復力の表現~アートNPOエイドによる自治の問い直し

山口洋典 (浄土宗應典院主幹・應典院寺町倶楽部事務局長)

 2011年3月20日、私は鳥取県の「鳥の劇場」にいた。当初「アートNPOフォーラム」として開催されるはずの催しは「アートNPO緊急フォーラム」と名称を変え、最終日のトークセッションは、「トットリ デ ハッタリ」と題した現実的な制約を超え社会の諸制度を変革するための議論から、「わたしたちに、できること。アートとNPOに、できること。」に変更された。ただ、今思えば、名称が変更されたものの、その根底にある問いは変わっていなかったのではなかろうか。それは誰に言われるわけでもなく率先して事業を展開し、しかし誰かに言われたからといって事業を始めるわけでもないNPOと自治の相互関係という壮大なお題である。

 「あの日」から1週間が過ぎ、当初の予定を変更して開催された「緊急」フォーラムでは、「互いの知恵を、未来に」と掲げられた「閉会のことば」がまとめられた。本文の中に埋め込まれた「無力感」や「虚無感」や「罪悪感」などといった言葉からは、内省的な語りがなされたことを垣間見ることができるだろう。しかし、閉会にあたって確認されたのが「アートNPOエイド」の設置であった。その趣旨は、「閉会のことば」の結語にある「集うことができた人々の確固たる連帯を互いに約束」するということに見いだすことができる。

 「緊急」ということで集った志高い人々の思いは、アートNPOリンクが一旦引き受け、コーディネート役を担うことになった。そして「表現の回復」をキーフレーズに、人(huMan)と物資(Material)とお金(Money)、いわゆる活動資源の3つのMをつなぐプラットフォームとして「アートNPOエイド」が立ち上がることになったのだ。そこには、前年度に京都府の舞鶴にて開催されたアートNPOフォーラムの分科会で接近された市民財団の知見も重なって、公益財団法人京都地域創造基金による事業指定寄付のプログラムも接続できた。思いが形になる、と言葉では簡単に言えることが、多くの知の効果的な統合によって、机上の空論に終わることがなかった。

 アートNPO緊急フォーラムから、つまりは東日本大震災から半年あまりを経た10月、大阪で「アートNPOフォーラム」が開催された。テーマは「芸術文化で自治、創造するねん」となったが、3日間のプログラムを経て、アートNPOエイドの設置を経て、今一度、一人ひとりが他者を思い約束し、その約束を守るべく自らの思いをさらなる他者に向けて表現することで、よりよい関係を生成・維持・発展させていく<自治>が実現するということに迫る機会となった。東日本大震災は天災でも人災でも「文明災」と言ったのは哲学者の梅原猛氏だが、仮に文明の転換点に今あるのであれば、近代という時代を経て現代に根差してきた功利的な個人主義と過度な社会システム依存を見つめ直す好機かもしれない。アートNPOエイドは、個人主義と社会システムのもと、多数派の側から「情報」のレベルとして回収されてしまいかねない、そんな儚く弱い表現の意味を尊いものとして扱うべく、転じて個々の存在の回復力(レジリエンス:resilience)を信じた、アートNPOによる表現活動とも言えよう。


2012年6月19日 公開
寄稿:山口洋典
アートNPOエイド・伝えるプログラム

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